半藤一利「いま戦争と平和を語る」を読んで

「いま戦争と平和を語る」(半藤一利 井上亮編 日本経済新聞出版社2010年7月刊)をこの8月に読みました。

2008年から2010年にかけて、日本経済新聞社記者の井上亮さんが述べ10数時間のインタビューを行い、それを井上さんが編者でまとめたものです。

半藤さん、高齢なのにたいへん若々しい語り口で、縦横に語っています。現日本国憲法を大事にしていかなくてはならない、9条を大事にしていかなければならないということが、本当に半藤さんの腹に据わっていること、理解しました。歯に衣を着せぬ言い方も、姿勢がはっきりしているからこそ、なお率直にできるのです。広い意味での同志の発見でした。

「国家というのは一つの機軸があった方がいいんです。その機軸をもとにして国家を作っていく。わたくしは『憲法9条を守る会』には直接参加していません。むしろ自分ひとりで『育てる会』を唱えているんです。守るだけでなく、9条の精神を世界にアナウンスするという役割を日本人がもっと果たすべきだと思っています。そのほうが人類のためになる。守るんじゃなくて発信して大きく育てた方がいい。たった一人ですが『育てる会』の提唱者というわけです」(第10章 平和主義こそ日本の機軸 268ページ)

ぜひお読みいただければとおすすめします。幅も中味もある内容、読み手の教養が増すこともまちがいありません(少なくとも私は)。はたしてそうかと考えながらの読書、半藤さんにこづきまわされるのも良い体験になりました。

私が大変注目したのは、仕事の上でも深くつきあった松本清張、司馬遼太郎の両作家に対する評価でした。面白いけれども本当にそうなのか、考えようととくに思ったところです。

そこのところで、井上さんの質問に答えているところがあります。まことに半藤さんらしいところかもしれません。

「(井上)二人の歴史に対する見方で、半藤さんが学ぶところがありましたか。

(半藤)申しわけないが、正直いって、太平洋戦争に関するかぎりはなかったですね。
(井上)二人とも?

(半藤)そう。それは安吾さんとはだいぶ違いました。まあ、昭和史に関する限りはわたくしの知識が上だったんじゃないかと思います。軍人さんなんかの話だって、むしろ清張さんがわたくしに一生懸命聞いていたからね」(第8章 作家たちの歴史観 231ページ)

故人となっている両氏、もし存命であれば、どう反応されるか。ニヤリとしてしまいました。文中の安吾さんとは坂口安吾です。半藤さんは坂口安吾から「堕落論」含め多くの学ぶものがあったことがうかがわれます。

井上さんは、言っています。

「半藤さんは日本近代史の教訓として、何よりも大切なのが『リアリズムと常識』だと言います。見栄えがよく、心地よい響きはあるものの、べっとりと着色料が混じった歴史観とは一線を画す、地に足のついた戦争論、平和論がここで語られていると思います」(はじめに 10ページ)

話は変わりますが、出版されたばかりの半藤一利さんと加藤陽子さんの「昭和史裁判」(文藝春秋)も、読み応えがありました。まな板にあげられた5人に対する半藤節に丁々発止の加藤さん、親子ほど(それ以上か)年の離れたおふたりの対談、興味深く内容が濃いものでした。これもおすすめです。

私には、歴史から学ぶとはなにか、鋭く両書から問われたことになりました。改めて、私なりに学び直しです。

2011年8月20日 会員UE

第4回例会(天木直人氏講演会)のDVDができました

第4回例会
天木直人氏講演会「さらば日米同盟~平和国家日本を目指す最強の自主防衛政策」
DVDができました。

天木直人氏講演会DVD (ジャケットの大きさは実際と異なります)