品川正治さんを偲ぶ

去る8月29日、経済同友会終身幹事品川正治(しながわ・まさじ)さんが亡くなられました。1924(大正13)年7月26日生まれですから、89歳大往生と申しあげてもよいかもしれません。しかし、ご本人もまだまだお考えになっておられたでしょう。知った私も大変残念に思いました。

品川さん、2009年に札幌で講演いただきました。グリーン九条の会講演会としてです。北海道ですでに講演もされておられましたが、世話人のひとりの熱心な要請に応えていただきました。戦前兵士として死線を越えた体験もされ、戦後憲法を重く受け止めて生き抜かれました。経済人として企業のトップあるいは経済同友会などの活動、幅広いものがあります。

戦争を起こすのも人間、戦争を止めるのも人間」「ぼろぼろにさせられようとも憲法9条の旗は守り掲げ続ける」などの言葉、講演を聞いた多くの人に感銘を与えました。私もその幸運な思い出を大切にして現在があります。

ご本人は著作を幾つか残しています。私がたいへん感銘を受けたひとつに、「これからの日本の座標軸」(新日本出版社 2006年刊)がありました。戦後1年間(1948年度)だけ中学の教師をし、その教え子たちと、後年になって年1回の講義を行った記録です。1991年から2006年の間に12回行われた全講義が収録されています。再び学ぶことになった、教え子たちの感慨はいかばかりだったでしょうか。ご本人としても。読み進むと、43年ぶりの「授業」、目を輝かせて話をし、目を輝かせて聞いている雰囲気に圧倒されてしまうばかりでした。

品川さんの「史観」「ものの見方、考え方」が体系的に詳述されていると私は受け止めました。全部わかって納得したかというと、そうはいきませんでした。私の知識、教養では追いつかないこともたくさんあって、読み通すのはたいへんだったのです。しかし、生徒たちに語りかけた提起は、私にも届くものがありました。わからないところを読み返し、考えてみる、その作業が今でも続くことになりました。わからないところを、少しでも減らそうという気持ちです。中には、はたしてそうかとの気持ちになるところもあるので、けっこうしんどい宿題になっています。物事を総合的にとらえるための、品川指針があふれているものであることは確かです。どうかみくだくのか、残りの私の人生では果たせるか疑問ですが。

縁あって、後年九条の会活動にも気持ちを重ねていただいたことが、ひろがりを豊かにされたと私は思っています。私たちともご縁がつながりました。

グリーン九条の会、2009年講演DVDを作成しています。いくらかの残部もあるので、こうした機会にでも、活用が進めばとの気持ちです。

なお、りんゆう観光の「ウェブマガジン カムイミンタラ」アーカイブに、2007年3月号(通巻134号)特集、2009年11月号(通巻148号)特集が、札幌での講演を2回収録しています。りんゆう観光のホームページで読めるようになっています。ご参照いただければ幸いです。

2013年9月23日 会員UE

第6回講演会 目加田 説子氏 『市民が紡ぐ平和』のDVD完成

第6回講演会のDVDが完成いたしました。
 
 目加田 説子氏 『市民が紡ぐ平和』
2013年7月6日(土)


1300円送料込(本体-税込1000円)です
ご希望の方はご連絡ください

『半藤一利と宮崎駿の腰ぬけ愛国談義』(文春ジブリ文庫)を読む


スタジオジブリ編集部『熱風』7月号の「憲法改正特集」を読み、宮崎駿監督の新作「風立ちぬ」を観た直後に本書を手にして、時宜に適した出版だと、改めて思いました。
83歳の「軍艦野郎」半藤さんと、72歳の「遅れてきた軍国少年」宮崎さんは、「風立ちぬ」から漱石の「草枕」そして原発など、自由自在に語り合っています。
 
「風立ちぬ」からなにを学ぶかといったら、「負け戦のときは負け戦のなかで一生懸命生きるしかない、というようなことでしょうか」と語る宮崎さんの言葉が印象的でした。
この映画に込められた反軍思想は再発見でした。宮崎さんの、航空参謀源田実に対する怒りは相当なものです。東京大空襲をやらせたカーチス・ルメイ司令官に勲章をあげるよう運動した男だからです。映画では会議のシーンは出さず、軍人が関与してくる場面の音声は雑音で処理したというのです。
宮崎映画の愛好者の一部には、「風の谷のナウシカ」以降の宮崎映画は変わったという意見も見受けられますが、「風立ちぬ」に込められた監督の意図は、明確に伝わって来ました。

「腰ぬけの愛国論」も頷ける考えです。「日本は脇役でいいんです。小国主義でいいんです」という半藤さんに宮崎さんは、「ぼくは情けないほうが、勇ましくないほうがいいと思います」と応じます。
山田洋次監督の映画「馬鹿が戦車でやって来る」ではないですが、得意気に戦車に乗っている安倍首相が目指している方向は、昭和10年の国策スローガン「進め日の丸 つづけ国民」(『黙って働き 笑って納税 戦時国策スローガン傑作100選』)の再現であるだけに、「腰ぬけの愛国論」は大切な視点だと思います。
 
  福島第一原発の事故のとき宮崎さんは、「あれを支えていた体制が『旧軍』とちっとも変わっていなかったことに気づいて、吐き気がしました」と語っています。「またぞろ原発再稼働だなどと、ほんとうにくだらないことを言いはじめています。むしろ原発を廃炉にするための技術開発にとり組んだほうがいい」という半藤さんの意見が、国民の多数だと思います。

宮崎さんの映画が、多くの人たちから支持されている理由を、垣間見た気がしました。

  2013・9・2 会員M