資料掲載について

改憲論議が一層強まる中、各論の比較検討の一助として この度当会ホームページ資料サイトに日本国憲法、自民党改憲草案、日本維新の会綱領を掲載いたしました。
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2012・11・27 グリーン九条の会事務局

高橋是清と「内外国策私見」 -幸田真音「天佑なり」(新聞連載中)から


今北海道新聞朝刊に幸田真音(こうだ・まいん)さんの小説「天佑なり」が連載されています。他紙でも掲載されているようです。戦前の政治経済の世界で活躍した高橋是清(たかはし・これきよ 1854-1936 2・26事件で殺害される)が主人公で生涯の伝記小説ともいえる内容です。

私にとって名前でしか知らない過去の人でした。ですから連載がはじまったときはそれほど関心も持たずにいました。少ししてから友人から高橋是清の子孫は北海道と縁があると聞かされ、読むようになりました。波乱に富んだ生涯をだんだんと知り、今は毎朝欠かさずが日課です。もっとも「天佑なり」、作者がどういう意味で題にしたか私にまだピンときていませんが。

とりわけ10月下旬からさらに身を入れて読むようになりました。作者幸田真音さんが高橋是清の書いた「内外国策私見」について言及したからです。原敬内閣の大蔵大臣だった高橋是清が原首相に示した私的文書ともいうもの、はじめてその名前と内容概要を知らされました。ほんとうに一部の人しか目にしなかった文書、当時から敗戦まで世間にはまったく知られていなかったものではないでしょうか。今その写しというべきものが防衛省の研究所に残されているそうです。参謀本部廃止もそのなかにある内容でした。驚くべき率直な提言です。その後も軍事費の増大や中国への関与増大に批判的だった高橋是清は、2・26事件で殺害されてしまいます。「内外国策私見」を書いたことも、軍事クーデターの槍玉にあげられた理由に含まれていたかもしれません。

「私見」を目にしそれについて書き残した原敬首相は暗殺されました。是清も後年2・26事件で殺されました。大正デモクラシーで護憲の立場(もちろん当時の明治憲法ですが)をとった政治家に対するテロはすざまじいものだったことを改めて知りました。国体変革を考えるなどの者への治安維持法による思想弾圧はひどさは小林多喜二をあげるだけでもよくわかります。しかし国体護持の人にたいしても、まっとうな内容の発言がめざわりであれば押しつぶす時代だったことを、「天佑なり」は改めて教えてくれました。

幸田さん、是清像を浮き彫りにするのに欠かせない素材として、「私見」を取り上げたことは間違いないでしょう。警世の発言、それがどのようなものだったか、「天佑なり」の読者にも広く知らせてくれました。戦前の日本でもさまざまな声はあったのです。戦前社会の姿を少し知ることになりました。私は彼女の小説、ひとつくらいしか読んでいません。それほど印象強い人ではありませんでした。しかし「天佑なり」は気合の入った作品と今は思い、幸田さんの広さ深さを感じるようになりました。

昨年末連載開始にあたっての作者の言は以下のとおりです。

「日米欧の財政問題が深刻になっているが、日本は明治のころから借金に苦しんできた。日露戦争、関東大震災や金融恐慌の時代を生きた高橋是清の生涯を描くことで、「混乱と萎縮」の今、日本人の潜在力を見直す機会になればうれしい」

いつの時代でも、正しい国策にはイエス、間違ったは国策にはノー、と言わなくてはいけないと、幸田さんから私はとりあえず教えられました。作者の意図する全体像はまだわかっていませんが。

余談となりますが、高橋是清のつぶやきは、「天佑なり」を通して、私にも届きました。おそらく多くの人のさまざまなつぶやきがあったことが、その積み重ねがあったことが、戦後の日本国憲法の内容とそれを受け入れた日本国民の意識にも反映しているのだろうと思いました。

2012年11月25日 会員UE

虚栄の繁栄か、真実の清貧か―。


池井戸 潤の新作『七つの会議』(日本経済新聞出版社)は、不正な手段によって業績を伸ばしてきた会社が、それがバレそうになるとリコール隠しに走り、ついには自滅していく物語です。『空飛ぶタイや』に通底する企業悪を衝いた作品です。
なぜ、不正に走るのか。
社長は、右肩上がりの成長と株主利益を守るためにモラルを捨て、実績のために魂を売ってしまい、不正に荷担した社員、社運を賭して隠蔽に走る社員は、組織のために魂を売ってしまったのです。
このような「虚栄の繁栄」の対極にあるのが、「真実の清貧」です。
主人公のお父親は、広島弁で次のように語ります。
「仕事っちゅうのは、金儲けじゃない。人の助けになることじゃ。人が喜ぶ顔見るのは楽しいもんじゃけ。そうすりゃあ、金は後からついてくる。客を大事にせん商売は滅びる」
顧客を大切にしない行為、顧客を裏切る行為こそ、自らの首を絞めることになるというこの作品の主張は、ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』(岩波書店)が明らかにした惨事便乗型資本主義に対する批判にもなっています。

2012・11・23 会員M