湯浅誠・一丁あがり実行委員会 「活動家一丁あがり! 社会にモノ言うはじめの一歩」NHK出版新書

2011年3月10日第一刷発行として、NHK新書より「活動家一丁あがり! 社会にモノ言うはじめの一歩」が出版されました。湯浅誠さん(反貧困ネットワーク事務局長・NPO法人自立生活サポートセンターもやい事務局次長)と彼をはじめとする「一丁あがり委員会」(特別講座『一丁あがり!』を運営する活動家集団)の人々によるはじめるにあたっての趣旨解説と報告です。

2009年5月よりスタートした特別講座「活動家一丁あがり!」は2010年に第2回を終了しました。
湯浅さんは次のように述べています。

「『活動家』という言葉の重苦しさと『一丁あがり』という言葉の手軽さ。どう考えても結びつかないと感じられるこの二つの言葉を結びつけるところに、本書の目的がある。(中略)

『今の若いやつらには覇気がない、何を考えているかわからん』と言うクセに、何か言ったら『ぜいたく言うな』と言うような大人ばかりの社会で、『大人になりたい』と成長を楽しみにする子どもが育つだろうか。大人になることはつまらなくなることとしか感じられない社会に、発展があるだろうか。『活動家』は、人を押しのけ黙らせ、自分だけがしゃべり続けたいという、そんな子どもっぽい大人ではない。そんな独善的で傲慢なイメージが『活動家』について回っているのだとしたら、その貧相なイメージを本書で葬り去りたい。なぜなら『社会にちゃんとモノ言う活動家』のいない社会なんて、つまらないし魅力もないから。

私たちには、生きるに値する社会をつくっていく責任がある。」(はじめに)

「怒りが外に向かわず、自分自身を追い詰める方向に向かう。そうした自己責任論的回路をこの社会はつくり上げてしまった。

『コミュニケーション能力が成功のカギ』などというアヤシイ新興宗教が隆盛したために、経済的・社会的弱者はますます人付き合いに気を遣い、気を遣いすぎて疲れ果て、疲れ果てて撤退したくなると、そのこと自体が無能さの証だと自己評価し、この『どうしようもない自分』が生きていくことは、死ぬことよりはるかに大変だと思うに至る。

今の20代半ばくらいまでの人たちにとって、社会とは物心ついたころからずっとそのような“場”であり続け、生きるとは『人と交わるだけでもへとへとになってしまうこの社会で、それに加えて生活と仕事を切り盛りしていくこと』を意味する。

本文中、就職が困難になったからこその『就活』、結婚が困難になったからこその『婚活』だと書いたが、その延長線上で『生活』の意味も変わりつつあるように感じる。つまり生きることが困難になったからこその『生活』という活動だ。

生きることが『活動』である人にとって、“場”を呼びかけ、つくり、人とつながり、社会にモノを言っていくための『活動』とは何なのか。『居場所づくり』という活動は、それに対するひとつの答えなのかもしれない。生きることの大変さというニーズが、それを中和する“場”を求めさせる。それは従来型の活動のカテゴリーには入っていなかったが、『生きることが活動になった今、『居場所づくり』はその“場”自体が社会に対する異議申し立ての重要な一形態となっているのかもしれない。それを活動からの撤退と捉えるのか、切実な社会的課題に対する応答の一形態として積極的に位置づけるのか、問われているのはその必要性を強く感じることなく生きてこられた者たちの想像力なのだろう。(中略)

『まだ大丈夫』といえる根拠は何もないが、私たちは本書で、とりあえず投げかけてみた。就職も結婚も生きることも活動になってしまうような世の中で、社会の当事者として生きやすい社会をつくるための活動がもっとたくさんあっていいのではないか、と呼びかけてみた。この言葉がどこの誰に届くのか。投げかけた言葉の着地点を、私たちは固唾をのんで見守っている。

2011年2月12日 新幹線車中にて」(おわりに)

「おわりに」を執筆してから1ヶ月、3月11日に東北・関東大震災が起こりました。そして地震と津波による東京電力福島第一発電所の被災事故とまだ進行中の事態となりました。それともかみあうタイムリーな出版と言ったら言い過ぎでしょうか。

内容は湯浅さん以外にも多くの方の実践報告がてんこもりです。感じること、考えることは多いのでは。「今の若い者は」を昨年5月に湯浅さんの話を聞くまで口にして何も感じなかった「未熟な」私へのテキストとしてもふさわしいようです。

余談ですが、月刊誌「文藝春秋」4月号(これも大震災前に出たものといえますが)、「超大型企画 これが私たちの望んだ日本なのか」、アンケートに応じた125人の声が掲載されています。その声の多く(私には全部ではありません)が大震災を経た今でも通用する発言と私は受け止めています。「活動家一丁あがり委員会」とも重なることの多そうな内容に驚かされました。湯浅さんも「守るべきは政党政治だ」でその1人です。

2011年4月2日 会員UE