「リンカーン」(ドリス・カーンズ・グッドウィン)を読んで


中公文庫から米国の歴史家ドリス・カーンズ・グッドウィンの著作「リンカーン」(全3巻)を読みました。中央公論新社より2011年に上下2巻で出版されていたそうですが、そのころ私はぜんぜん知りませんでした。書店に新発売で文庫本が平積みされていたことで手に取ることになりました。4月19日(金)より全国で封切られる米映画「リンカーン」(スピルバーグ監督)の原本となる著作だとのふれこみに釣られたのです。

本の著者は、第36代リンドン・B・ジョンソン大統領の補佐官を務めた後、ハーバード大学で教鞭をとり歴史家として著作も書いているそうです。このリンカーン伝は10年かけてさまざまな資料を読み込んだ「一大物語」(訳者 平岡緑)でした。そして「本書はアメリカ合衆国第16代大統領エイブラハム・リンカーンの最後の5年間、すなわち大統領候補として共和党の指名を受けた1860年から暗殺された1865年までを描いたものである。」(解説 土田宏)だそうです。

土田氏は、映画はその大作のどこに焦点をあてたかについても触れています。脚本(トニー・クシュナー)は、銃後の議会での、奴隷制度を廃止する憲法第13条の修正法案の採択の日々に焦点をあてているのは、秀逸と述べています。リンカーン役のデニエル・デイ=ルイスは、2013年の「ゴールデングローブ賞」「米アカデミー賞」で主演男優賞を受賞しました。映画のできも間違いなく良いようです。

4月19日(金)より日本での封切り公開です。これまで予告編を見て、封切りを楽しみにしていた私でしたが、ノンフィクションドラマともいうべき原作を通読できたことで、150年前のアメリカ合衆国、リンカーンの人となり、とりまく人々について、具体的な知識を得ることができました。見る楽しさがさらに増しそうです。

それにしても、リンカーンは本当に時代が求めた人だった、よくぞリーダーシップをふるう立場になれたものだ、との思いを深くしました。

余談ですが、アメリカ議会での憲法修正には3分の2以上の賛成がなければだめということも知りました。日本で、3分の2条項を取り払おうとする動きが公然とされていること、そのために瞬間的にでも今年の参議院選挙で改憲派で3分の2を占めようとする動きも強まっている今です。どさくさまぎれにそうした策動には厳しい目が必要なようです。

南北戦争を通して、奴隷制度は憲法の上からも否定されることになりました。しかし著者も触れているように、黒人差別が社会の中でだめというためには、さらに100年以上の取組みがなければなりませんでした。言葉だけに止めているのではなく、実際にそれが地についたものになるためには、やはり「活憲」の姿勢と取組みが求められているのでしょう。自戒にもなりました。

2013年4月12日 会員UE